知識についての講演

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本講演は、2026年10月3日にアラヴィンド・スリニヴァスがケンブリッジ・ユニオン・ソサエティで行ったものです。ケンブリッジ・ユニオン・ソサエティは、ケンブリッジ大学最大の学生団体であり、現存する世界最古のディベート団体です。
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こんにちは。ありがとうございます。この場に立てることを光栄に思います。
会社を創業して意外だったことの一つは、大学で過ごす時間がとても多いことです。私はそれを楽しんでいます。CEOにとって、反論してくれる聴衆がいるのはたいてい大学だけです。ですから今日は、私が話す時間よりも多くの時間をディスカッションに充てたいと思います。
それでは始めましょう。
普段、どこかで講演に招かれると、「AIの未来」のようなありきたりなタイトルで、未来予測の話をしてほしいと頼まれます。今日はAIの未来についてはお話ししません。代わりに、皆さんの未来についてお話しします。私にとっては皆さんの未来のほうが興味深いですし、おそらく皆さんにとってもそうでしょう。
まずは、少し過去の話から始めましょう。ケンブリッジは、過去と皆さんの未来を同時に語るのに最適な場所です。ここにはその両方があるからです。
言い伝えによれば、現在私たちが査読制度と呼んでいるものは、ここケンブリッジで発明されました。正確に言えば、それはケンブリッジの一人の教授によるもので、彼はこの大学ではなく、ロンドン王立協会でそれを提案しました。1831年のことです。今日では、毎年350万本を超える科学論文が査読制度のもとで発表されています。
それから約160年後、スタンフォード大学の2人の博士課程の学生が、ネットワーク構造とデータマイニングの研究に取り組んでいました。1990年代のインターネットブームが始まったばかりの頃です。誰もがワールド・ワイド・ウェブの話ばかりしていました。今日の「AI」のようなものです。
これも今日と同じように、そのブームについて語っていたのは、ほとんどが投資家とメディアでした。当時の「テックコミュニティ」とは通信業界のことでした。議論に加わる研究者はあまりいませんでした(いるにはいましたが、多くはありませんでした)。そして、この2人の博士課程の学生は、インターネットブームの当事者とはとても言えない存在でした。
しかし彼らは、大学の外にいる人々があまり気にかけていなかったあることを知っていました。
多くの研究者と同じように、彼らも大学の目的を理解していました。大学の目的とは、知識を前進させることです。
だからこそ私たちは査読を用いるのです。学術論文に引用が多いのも同じ理由です。そしてこの2人の学生は、世界の知識の量(査読に耐える質の論文数で近似されます)は増える一方であることを知っていました。ですから、ウェブもまた人類の知識とともに増え続ける一方だと容易に見通せたのです。
彼らはまた、ウェブにとっては「新しい」古くからの問題にも通じていました。知識が常に拡大し続けるなら、正しい知識、あるいは最良の知識をどうやって見つけるのか、という問題です。従来のモデルでは、研究者は、ある研究が有用か、信頼に足るかを、それが引用された回数に基づいて判断します。
そこで彼らは、インターネット上のあらゆるウェブサイトを、ほかのいくつのウェブサイトから引用、つまりリンクされているかに基づき、それらのサイトの内容との関連も踏まえて評価するアルゴリズムを作るというアイデアを思いつきました。
彼らはこのシステムを「Page Rank」と名付けました。ウェブ上のすべてのページ(page)をランク付けしていたからであり、また博士課程の学生の一人がラリー・ペイジ(Larry Page)という名前だったからです。
ラリーとそのパートナー(セルゲイ・ブリン)は、このささやかな学術的原則を取り上げ、一般の人々にも使えるものにしました。Googleが歴史上最も役立つツールの一つとなり、最も成功したビジネスの一つとなったのは、ラリー・ペイジが、大学が100年にわたって行ってきたことをそのまま応用したからなのです。
先ほど申し上げたとおり、大学の目的は知識を前進させることです。この講演では、知識について3つのことをお話しします。私たち自身の知識について考えることで、人工知能をより実践的に理解できるようになればと願っています。
1.
第一に、知識には命があります。生まれ、衰え、そして死んでいきます。
知識にはライフサイクルがあります。そしてライフサイクルがあるからこそ、知識は進化していきます。
私たちの知識が進化するにつれて、私たちは皆、賢くなっています。これはフリン効果と呼ばれています。フリン効果とは、人類が10年ごとにIQにして約3ポイントずつ賢くなってきたという観察結果です。
IQテストは平均が100に保たれるよう常に基準が改定されているため、フリン効果はパーセンタイルで考えるとわかりやすいでしょう。1950年に知能が92パーセンタイルだった人は、今日では50パーセンタイルにすぎません。私たちは皆、賢くなったのです。
1950年は、チューリングテストが考案された年でもあります。これは、機械が人間より賢いかどうか、あるいはいつそうなるかを判定する最初のテストでした。つまり、1950年のチューリングテストは、機械にとってずっと合格しやすいものだったのです。「人間」の知能の基準が低かったからです。
それが進化の力です。知識は常に、さらなる知識へとつながります。
その裏返しとして、世界が賢くなっても、個人としての皆さんは愚かになりうるということがあります。知識は衰えていきます。半減期のようなものだと考えてください。放射性元素の半減期とは、その半分が崩壊するまでにかかる時間です。知識の半減期とは、その半分が時代遅れになるまでにかかる時間です。
ここケンブリッジからの例をいくつかご紹介しましょう。
1978年、ロイ・カーン卿は移植医療へのシクロスポリンの導入に貢献しました。これは臓器の拒絶反応を防ぐうえで重要なものでした。最初の臨床試験はケンブリッジで行われました。2001年までには、別の薬であるタクロリムスが、米国の腎移植において同種の薬の中で主流の治療薬となっていました。つまり、シクロスポリン治療に関する医学的知識の半減期は23年だったと言えるでしょう。
完璧な尺度ではありませんが、変化の速い分野のエンジニアを評価するうえで役立つモデルです。テック業界ではこれを実際に使っています。その含意は、「このエンジニアのキャリアのどの時点で、その人が知っていることの半分が完全に時代遅れになるのか?」ということです。
皆さんのキャリアでは、それはどの時点で起こるでしょうか?その答えは、新しいことを学ぶのにどれだけの時間を費やすかによって決まります。
残念ながら、まれに知識が死んでしまうこともあります。話し手が一人もいなくなった言語があります。長老とともに失われる知恵もあります。
だからこそ人類は、4,000年以上にわたって図書館を築いてきました。そしてウェブが登場すると、私たちは知っていることを桁違いに多くそこへ載せました。つまり、知識は死ぬものですが、死ぬ必要はないのです。おそらく人間に生まれつき備わった性質として、人々は知識を守らなければならないと感じてきました。私たちは絶えず知識を保存し、世界の知識の総量を増やし続けています。それは良いことです。
念のため申し添えておくと、知識は生き物のようなものですが、生きてはいません。生きているのは皆さんだけです。ただ、人は何か新しいことを学んでいるときにこそ、より生き生きとしているのだと私は思います。
ちなみに、これこそがPerplexityが存在する理由です。しかし、今日はPerplexityの話をしに来たのではありません。皆さんと、知識の経済についてお話しするために来ました。ここから2つ目のポイントに移ります。
2.
第二に、知識はお金ではありません。しかし、お金のように振る舞います。
お金には時間的価値があります。利子によって増え、インフレによって目減りします。十分な時間が経てば、利子もインフレも複利で効いてきます。
10万ポンドの購買力が4万ポンド分にまで下がったとき(おそらく約23年後)、同じ価値を保つには25万ポンドが必要になります。さらにその23年後には、62万5,000ポンドが必要になるでしょう。
複利が働くと、利益も損失も時間とともに指数関数的に膨らんでいきます。
だからこそ、最も基本的な金融の原則は、常にインフレ率を上回る利率で複利運用すべきだということなのです。成長していなければ、縮小しているからです。知識もまったく同じです。
ポンドの価値と同じように、皆さんが今日知っていることの価値も、時間とともに目減りしていきます。そして通常の減価と同じように、それは毎日ほんの少しずつ進みます。ほとんど気づかないほどわずかです。ところがある日、目覚めると何も残っていないのです。皆さんの知識には、もはや以前と同じ市場価値はありません。これは避けられないことです。思い出してください。ピタゴラスの定理は、かつては限られたエリートだけが知ることを許されたものでした。しかし、ここにいる皆さんは全員、7年生のときにそれを学びました。
私たちは皆、これからもずっと賢くなり続けます。先ほど申し上げたように、それこそが大学の目的のすべてです。うまくいけば、遠い未来のいつか、皆さんがここケンブリッジで学んだことが、7年生のカリキュラムになっているかもしれません。
そうなるなら、それは良いことです。進歩を意味するからです。しかし同時に、経済的な目標を達成するには、学び続けることをやめてはならないということでもあります。知識のインフレ率を上回る利率で学ばなければならないのです。
言い換えれば、自分自身の知識の半減期を上回るペースで、知っていることを倍増させなければならないのです。これには時間がかかります。しかし、複利というレンズを通して世界を見るなら、長い未来を見据えて見なければなりません。
だからこそ、複利で資産を増やす最善の秘訣は若いうちに始めることであり、次善の方法は長生きすることなのです。ウォーレン・バフェットは11歳で投資を始めましたが、その資産の99%は65歳以降に築かれたものです。
これは、知識とお金の最後の共通点を示唆しています。使わなければならない、ということです。
資本があれば、それを投じて働かせます。知識、とりわけ並外れた知識があるなら、それを活用すべきです。それを使って何かをしてください。それが発明とイノベーションの違いです。発明は「何かを作ったか?」と問います。イノベーションは「それで何かが変わったか?」と問います。
そして、何かを変えたいのなら、知識をもとに行動しなければなりません。新たな問いや探究、新たな知識を生み出すのは、行動だけです。常に学び、常に行動し続けなければならないのです。
ここで人工知能が登場します。そしてこれが、3つ目にして最後のポイントにつながります。
3.
AIの目的は、人類の知識と繁栄を加速させることです。
今夜お話しした最初の2つのことを考えてみてください。私は、知識には生き物のような性質があり、広く人々の恩恵になるのだから、それを育み、前進させるべきだと言いました。次に、知識には経済的な性質があると言いました。大きく言えばすべての人の恩恵になるのだから、それを培うべきだと。
この2つを信じるなら、AIについても少し違った考え方をする必要があります。
AGIの実現や、技術のために技術を賢くすることに執着するのではなく、より優れた、より正確なAIを作る理由は人々の役に立つためだ、という結論に至るはずです。
AIの最も崇高で 最も重要な目的は、人々をより賢く、より豊かにすることだという結論に至るはずです。
これが大学の目的とよく似ていると感じたなら、そう、だからこそ私たちは今ここにいるのです。
もう一度、査読について考えてみましょう。査読は1831年に考案されました。今年、Perplexityは、OpenAIの創業メンバーである研究者の一人が提唱したアイデアをもとに、Model Councilというとてもシンプルなプロダクトをリリースしました。3つのAIモデルに同じ質問をします。それぞれが調べて回答し、その後「議長」役のモデルが、どこで意見が分かれ、どこで一致しているかを評価して、推論により最終的な回答を導き出します。
Model Councilは査読に取って代わるものではありません。その目的は、学術的な探究の精神をより多くの人々に届けることです。私たちは大学の精神を、この壁の外へ、そして世界中へと広げることができるのです。
私たちは、単に正しいと感じたり、正しそうに聞こえたりするだけでなく、本当に正しくあれる人を増やす手助けができます。科学的に真実と知識を追い求めることです。宇宙の流れは、誰もがより多くの 知識にもっとアクセスできる方向へと向かっています。人々が知識を持つことは良いことです。そして、その恩恵を受けるのは人々なのです。
最後に、私の会社にまつわる短い話をして締めくくりたいと思います。
創業当時、私たちはビジョンよりも疑問のほうが多い、たった3人のAI研究者でした。その後、4人目を迎えるにあたって、そろそろ健康保険に加入すべきだと考えました。アメリカの健康保険は、アメリカ人にとってさえ複雑です。私はアメリカ出身ではないので、なおさらわかりにくいものでした。
Googleの検索結果はまったく役に立ちませんでした。こういうとき、創業者が普通することは、経験のある人に電話することです。投資家や、ほかの創業者などです。でも、夜も遅い時間でした。私はすぐに片付けたかったので、自分で知識を探すしかありませんでした。
問題は、自分で調べるとなると、SEO対策された保険サイトをGoogleで次々と検索して回ることになり、そのどれもが最も信頼できそうに見せようと競い合う、ひどいアドバイスばかりだということでした。
そのとき私が作ったのが、Perplexityの最初のバージョンでした。
それが私の代わりに調べてくれました。そして、回答に出典を示させました。だから私は内容を検証し、さらに質問を重ねることができました。そうして、私たちの健康保険を整えました。問題は解決しました。次の問題へ。そしてまた次の問題へ、さらに次の問題へ。そうして今日に至っています。
この話の教訓は、もう「頼れるコネ」は必要ないということです。自分で学んで、実行すればいいのです。AIが約束するのは、あらゆる 知識にアクセスできることだと、すでにお伝えしました。この話の教訓は、誰もがあらゆる知識にアクセスできるということです。
これこそがAIの究極の約束です。今や誰もが好奇心を持てます。誰もが何でも作れます。今や誰もが知識の殿堂に足を踏み入れられます。それはすべての人に恩恵をもたらします。
そしてこれは、皆さんにとって良い知らせです。これからの人生で皆さんにできる最も大切なことは、好奇心を持ち続けることだということです。皆さんの中で最も成功するのは、最も多くの問いを持つ人です。そして、最も優れた問いを持つ人です。
ですから、私から皆さんへのアドバイスは、できる限り好奇心旺盛になることです。スマートフォンでソーシャルメディアをスクロールするだけで満足しないでください。ディナーの予約をするだけのAIエージェントで満足せず、それを使って本当に意味のある仕事をしてください。そして、あなたはもう正しいと言ってくるチャットボットを決して信じないでください。
探究の精神を信じてください。AIとともに学べることを信じてください。そうして皆さんが生み出すものを信じてください。そして、私たち皆のために、それを素晴らしいものにしてください。
ありがとうございました。